ファーストブラッドを取られたらどれくらいggなのか?

  • 2021.07.19
  • API
ファーストブラッドを取られたらどれくらいggなのか?
この記事はパッチ11.13のデータをもとに書かれています

アブストラクト

ファーストブラッドはゲームの一番最初のイベントだが、これでどれくらいゲームが決まってしまうものなのかという疑問を持った。そこで、”ファーストブラッドに関わったロールによって勝率が違う”と”ファーストブラッドの時間が早ければ早いほど勝率が高い”という2つの仮説を検証した。その結果、ジャングルとボットが対面を倒してファーストブラッドを取得すると平均より勝率が有意に高くなることがわかった。また、ファーストブラッドを取った時間は勝率に影響しないことがわかった。

序論:お前は「gg」ってチャットする暇があったらCSの一つでも取れ!

今日もサポートでプレイしていたら、味方のトップが敵ジャングルにガンクをくらってファーストブラッドを取られてしまいました。こういうことはよくあること、このゲームはがんばってボットを育てるぞ!と気を引き締め直すと、ボットが不意にタワー下に戻って静止しました。どうした?回線不調か?と思ったら「gg」というチャット。名前をみたらボット。お前はチャットする暇があったらCSの一つでも取れ!

ファーストブラッドで「gg」というチャットはままあることです。チャットを打つまではいかなくとも、ファーストブラッドで仲間がデスしたら「しっかりしてくれ~」と思うこともありますし、逆にキルしたら「キャリーしてもらお」と思うこともあります。ここで一つのふと、疑問が生まれました。実際、ファーストブラッドを取った側の勝率はどれくらいなのでしょうか。たいていの場合ファーストブラッドはゲーム中で一番最初にあるイベントです。この一番最初のイベントは勝ち負けにどれくらい影響するのでしょうか?そこで、RiotAPIを使ってファーストブラッドを取ったチームの勝率を集計することにしました。

この集計をしようと決めたとき、さらに2つの疑問が浮かんできました。それは、「ファーストブラッドに関わったロールによって勝率が違うのだろうか?」というものと、「ファーストブラッドの時間が早ければ早いほど勝率が高いのでは?」というものです。「ロールによって勝率が違う」は主観に基づく仮説です。例えば、トップレーナーがファーストブラッドで死ぬよりも、ジャングラーが死んだ方がゲームが辛くなる、勝ちにくくなる印象を持っています。

後者の「時間が早ければ早いほど勝率がいい」は以前に記事にした、「同じゴールド差ならば、早い時間の方が勝率が高い」という結論に基づいています。ファーストブラッドはボーナスも含めて500Gもらえます。これをもらえるのが早ければ早いほど500Gが相対的に大きな意味を持つので影響力を持ちやすくなる、つまり勝ちやすくなるのではないかと考えました。以上の2点に関して実験、議論していきます。

方法:ロールや時間によって勝率は変化するか?

まず、「ファーストブラッドに関わったロールによって勝率が違う」という仮説の実験方法を説明します。LoLはロールが5種類あるので、キルしたロールとデスしたロールで5×5=25通りのロールの組み合わせがが考えられます。この25通りに関して勝ち負け数を集計し、カイ二乗検定を行うことで平均的な勝率よりも有意に勝率が高い、または低いロール組み合わせを見つけることに挑戦しました。

次に「ファーストブラッドの時間が早ければ早いほど勝率が高い」という仮説に関しては、ファーストブラッドがゲーム時間ごとにヒストグラムをつくり、その時間ごとの勝率を集計しました。

結果と議論

実験データの概観:ファーストブラッドの勝率平均は59.8%

まずは、今回の集計に使ったデータの紹介です。全てのゲームが日本サーバーで行われたランクゲームです。パッチ11.11から11.13の155933ゲームを集計しました。なお、この中にAFKで無効試合になったものは含まれません。

次に、ファーストブラッドの概観です。今回集計した155933件のファーストブラッドを取った側の勝率は59.8%で、平均発生時間は2分52秒でした。最初の3分で勝率が50%から約10%も変化します。個人的には結構大きく変わるな、という印象をもちました。これが本当に大きいのか小さいのかは、ドラゴンやタワーなど他のオブジェクトとも比較する必要があるので今回は立ち入りません。今回はこれを基準に、ファーストブラッドの中で勝率が高いもの、低いものを探していきます。

ロールごとの勝率集計の結果:ジャングルがジャングルを倒すと平均より有意に勝率が高くなる

表1がキルしたロールとデスしたロールごとのファーストブラッド件数と勝率をまとめた表です。数字が大きい3マスは赤く、小さい3マスは青くなっています。

表1、パッチ11.11から13のロール別ファーストブラッド発生件数
パッチ11.11から13のロール別ファーストブラッド発生件数

発生件数に関して、トップ同士でやりあうパターンが1番多く、ミッド同士のパターンも2番目に多いです。3番目と4番目はボットがレーンの対面にいるボットまたはサポートを倒した場合で、今あげた4パターンで全体の50%以上のファーストブラッドが発生しています。逆に少ないのは、トップがボットレーンにいる二人をキルするまたはキルされるパターンです。一番遠いレーンのロールなので当然と言えば当然ですが、しっかり数字に出ています。

表2がその勝率です。表1と同様に数字が大きい3マスは赤く、小さい3マスは青くなっています。

表2、パッチ11.11から13のロール別ファーストブラッド勝率
パッチ11.11から13のロール別ファーストブラッド勝率

勝率を確認すると、一番勝率が高いのが、トップがボットをキルした時で、逆に低いのが、サポートがトップをキルした時です。それぞれ全体平均から約5%離れています。しかし、これらは前述した通り件数がとても少ないです。つまり、偶然に極端な結果が出た可能性もありますし、本当にそういう傾向があるかもしれません。そこで、全体のデータから得られた勝率59.8%とそれぞれの勝率がたまたま違うのか、偶然とは言えない程の違いがあるのかをカイ二乗検定で検定しました。その結果、表3の通り有意に勝率が高い3パターンと表4の勝率が低い2パターンを発見しました。

表3、ファーストブラッド取得で有意に勝率が高いロール
パッチ11.11から13のロール別ファーストブラッド勝率で有意に勝率が高いロール表

表4、ファーストブラッド有意で有意に勝率が低いロール
パッチ11.11から13のロール別ファーストブラッド勝率で有意に勝率が低いロール表

勝率が有意に高い3つのパターンで一番勝率が高いのがジャングルがジャングルを倒したときで、63.1%です。同じジャングルのキルでも、サポートを倒したときは逆に勝率が低く56.9%です。ジャングルが誰を倒すかで勝率が6.2%違うという結果になりました。それぞれ平均の勝率から約3%上か下かという差です。

勝率が有意に高い3つのパターンで件数が一番多いのがボットがボットを倒した場合です。勝率は61.1%でした。同じボットレーンでもサポートがサポートを倒した場合は勝率が有意に低く、57.1%です。ボットレーンは一番ファーストブラッドが生まれやすい場所ですが、誰がキルを取った、誰がデスしたかで逆の結果が出ました。

表3と4で唯一ミッドが絡んでいるパターンである、ミッドがジャングルをキルした場合は有意に勝率が高く、勝率が62.2%です。今回の実験では具体的なキルのシチュエーションまでは調べていません。なので、ミッドレーンへのガンクが失敗して返り討ちになった場合や、ジャングル同士のスカトルファイトに先に寄れた場合など、いろいろなシチュエーションを一つにまとめた場合の勝率ということになります。

ロールごとの勝率集計の議論:ジャングルはキルしてもデスしても勝率変化が大きい

この表3と4で注意すべき点は、有意に勝率が低いパターンはファーストブラッドを取らない方がいい、というわけではありません。ファーストブラッドを取得しても、他のパターンと比較すると勝ちにつながりにくいということです。言い換えると、ファーストブラッドで得た有利を他のプレイヤーに配るのが難しい、あるいはゲーム全体への影響力が小さい、などと言えるかもしれません。

表3と4にのっていないパターン、つまり平均の勝率と違いが確認できなかったもので、特筆すべきものは、表1で一番勝率が高かったトップがボットを倒した場合があります。このパターンはp値が1.42%でした。今回p値の棄却域を1%未満としているので、今回の結果だけでは有意な差を確認できなかった、と結論付けています。しかし、追加調査を行い、データ件数を増やせば有意な差があるという結果が得られるかもしれません。また、同様に表1で一番勝率が低かったサポートがトップをキルした場合も有意に差があるとは言えませんでした。

件数が多かった、トップがトップキルした場合とミッドがミッドをキルした場合は平均的という結果でした。実験前のイメージではミッドがファーストブラッドを取ったときは勝ちやすく、トップが対面を倒しても勝率に対しての影響力は小さいのかなと予想していたので、この結果は以外でした。

表3と4のキルとデスのロールを見ると、一番出現しているロールはジャングルです。ジャングルが誰をファーストブラッドでキルするかによって、一番勝率が変化するロールである、と言えます。さらに、ジャングル自身がファーストブラッドを取られた場合は平均以上に勝率が下がる場合があります。以上から、ロールの中で特にジャングルがキルしてもデスしても勝率の変化が大きいロールである、ということを明確にできました。

ボットレーンも同じファーストブラッドでも変化が大きい場所です。ボットがボットを倒した場合は勝率が有意に高く、サポートがサポートを倒した場合は勝率が有意に低く、その差が約4%です。この4%をどう見るかは難しいですが、可能ならば、ボットレーンはボットを狙った方がよく、サポートはキルを渡した方がよさそうです。さらに、ジャングルがボットレーンにガンクをしてサポートを倒しても勝率は平均以下です。上記のジャングルとは逆に、サポートはキルをとっても、あるいはキルを取られても平均より勝率の変化が小さいようです。

実験から、有意に勝率が高い、あるいは低いロールの組み合わせのファーストブラッドを発見しました。しかし、なぜ高いのか、低いのかは今回の実験から言えません。例えば、ボットがボットを倒してファーストブラッドを取ると勝率が高くなります。その原因はファーストタワーを取れるから、ドラゴンを取れるから、ミシックアイテムを早く作れるから、レベル差がつくから、などいくつか考えらます。しかし、今回の結果からはどれが原因で勝率が高くなるのかは言えません。これは今後の研究課題です。

  • キルしたロールとデスしたロールによって勝率は平均から3%~5%くらい前後する。
  • ジャングルがジャングルをキルする、ミッドがジャングルをキルする、ボットがボットをキルすると他のロールよりも勝率が有意に高くなる。
  • ジャングルがファーストブラッドにかかわると平均よりも大きく勝率が変化しやすい。
  • 逆にサポートがファーストブラッドにかかわっても平均より勝率の変化が小さい。

時間ごとの勝率集計の結果:同じロール同士のキルの発生時間と勝率のグラフ

次に、「ファーストブラッドの時間が早ければ早いほど勝率が高い」という仮説を検証していきます。この直前の実験からロールごとによって勝率が違うことがわかりました。そこで、対面のロールを倒した場合の5パターンのみをそれぞれ、5秒ごとにビンわけし、ヒストグラムにして、それぞれの時間帯で勝率を求めました。以下の図がそれぞれロールごとの、ファーストブラッド時間のヒストグラムと勝率の折れ線グラフです。横軸がファーストブラッドが起きたゲーム時間、左の縦軸がヒストグラムの起きた件数です。それぞれのグラフでスケールが違うことに注意してください。右の縦軸が折れ線グラフの勝率です。折れ線グラフは赤い5秒ごとと、緑の30秒移動平均の2つです。

パッチ11.11から13のトップ同士のファーストブラッド時間のヒストグラム
図1、トップ同士のファーストブラッド時間のヒストグラム
パッチ11.11から13のジャングル同士のファーストブラッド時間のヒストグラム
図2、ジャングル同士のファーストブラッド時間のヒストグラム
パッチ11.11から13のミッド同士のファーストブラッド時間のヒストグラム
図3、ミッド同士のファーストブラッド時間のヒストグラム
パッチ11.11から13のボット同士のファーストブラッド時間のヒストグラム
図4、ボット同士のファーストブラッド時間のヒストグラム
パッチ11.11から13のサポート同士のファーストブラッド時間のヒストグラム
図5、サポート同士のファーストブラッド時間のヒストグラム

時間ごとの勝率集計の議論:時間で勝率は変わらない

図を一目見てわかることは、勝率を表す折れ線グラフはほとんど真横で、特に早ければ勝率は高く、遅いと勝率が低い、というような傾向は見て取れません。そこで、基準となる各ロールごとの勝率と、各時間ごとの勝率は変わらないという帰無仮説を立ててカイ二乗検定を行いました。その結果、ほとんどの時間帯で帰無仮説を棄却できる時間帯はありませんでした。しかし、ジャングルの6分50秒とミッド3分25秒でp値が1%未満である結果を得ました。しかし、今回は以下の2つ理由でこの結果は偶然と結論づけました。

まず前提として、今回はp値の棄却域を1%にしています。そして、グラフは7分間を5秒ごとにわけているので84個の時間帯にわけています。84個の全ての時間帯で99%のよくある結果が出る確率は、(99/100)^84という式から43.0%です。つまり、偶然にp値が1%未満の時間帯が1つ以上出る確率は57.0%あります。今回は5個のグラフのうち、2つでp値が1%未満の結果が1つずつ出たので、この計算結果とよく合っています。

さらに、LoLというゲームを考えたときにレーン戦中の5秒だけ勝率が高くなるか低くなるとは考えにくいです。特にトップのヒストグラムが特徴的ですが、ファーストブラッドが起きやすいタイミングは30秒ごとの山になっています。これは、ミニオンウェーブ中にCSを取る時やレベルアップのタイミングでファーストブラッドが起きていると考えられます。つまり、レーン戦である以上、ミニオンウェーブの出撃間隔である30秒が基本の時間単位になるはずです。もし本当に勝率が変化するのであればその5秒だけではなく前後の15秒も含めた30秒に変化があるはずです。まとめると、突然5秒間だけ勝率が変化するとは考えにくいです。

以上の2点から、p値が1%の結果は偶然と結論づけました。つまり今回の結論は、ファーストブラッドの時間で勝率が変化するとは言えない、ということです。

ファーストブラッドの時間では勝率はかわらない

結論

今回はファーストブラッドにかかわったロールによって勝率が違うかを検討しました。その結果、ロールによって勝率は平均から3%~5%前後することがわかりました。特にジャングルがジャングルをキルする、ミッドがジャングルをキルする、ボットがボットをキルすると他のロールよりも勝率が有意に高くなることがわかりました。

次に、ファーストブラッドの発生時間と勝率に関しても検討しましたが、勝率との関係は発見できませんでした。

今後の課題、展開について

ロールの勝率の違いを生む原因は今回の実験では触れていません。ファーストブラッドがどのようなアクションにつながって、最終的な勝ちにつながるのかが分析したいです。また、ゲームの序盤にあるイベントとして、キルではなく、ファーストタワーもあります。レーンごとに勝率の違いがあるのでしょうか?同じような分析ができるかもしれません。

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