【LoL】時間ごとのゴールド差と勝率の相関関係について

  • 2021.05.23
  • API
【LoL】時間ごとのゴールド差と勝率の相関関係について
この記事はパッチ11.10のデータをもとに書かれています

アブストラクト

ゴールド差はゲーム中チームの強さの差を表すのに最も使われる指標です。しかしゴールド差と勝率の関係を定量的に語られることは少ないです。この記事ではゴールド差と勝率の関係性を定量的に可視化することを目的としました。RiotAPIを使い、ゴールド差ごとの時間と勝率の関係を集計した結果、ゴールド差は大きくなればなるほど勝率そのものは大きくなるが上昇率小さくなることがわかりました。さらに、同じゴールド差ならば時間が経てば経つほど勝率が下がることも確認できました。さらに大きすぎるゴールド差は30分過ぎから勝率の上昇に影響を与えないことがわかりました。

序論:3000G差あると、どれくらい有利なの?

ゴールド差はどこにでも出てくる指標です。プロの試合を観戦していればゴールド差を元にどちらの有利不利を確認することは一般的なことです。ゲームをプレイし終わったあと、ゴールド差のグラフを見てゲームを振り返ることも一般的です。

図1、MSI2021の決勝Game1の結果
MSI2021FinalGame1Result

チームにゴールド差があるとそれは装備差となり、装備差が集団戦の勝ち負けやピックアップの成否、にらみ合いの有利不利に違いが出てきます。ひいては、オブジェクトの取得、ネクサスの破壊のしやすさにつながります。だからゴールド差はよく使われる指標となっていますが、しかしここで私はある疑問を持ちました。
それは「どれくらいのゴールド差がどれくらい有利なのか」ということです。例えば500Gド差をつけたからといって勝ちを確信するような人は少数派だと思います。しかし、15000Gの差があれば、これは明らかに有利です。では5000Gド差はどれくらい有利なのでしょうか。別の表現だと、を逆転したゲームがあったとき、これはどれくらいありうることなのでしょうか。2ゲームに1回はあるようなありふれたことなのか、それとも100ゲームやっても1回あるかないかの珍しい出来事なのでしょうか。
また、似たような話題としてプロの試合を見ているときに、10分間や15分間ほどゴールド差が変わらないと、これはゴールド有利な側が追いつかれているようなものだ、ということを聞くことがあります。ゴールド差が変わっていないにもかかわらず追いつかれているとは不思議な感じもしますが、より具体的にはどれくらい差が詰まっているのでしょうか。
これらの疑問をまとめると、「ゴールド差と勝率の関係を可視化したい」と言うことが出来ます。ここまでに有利、不利という言葉を使いましたが、ここでは勝率という数字で表せるものに定義しなおしました。「20分で5000G差だと勝率○○%」のようなことが言えるようになるのが今回の記事の目標です。そうすれば、5000Gの逆転がよくあることなのか珍しいことなのかが数字として出てきます。また、後者の疑問も、「15分で5000Gの時の勝率」と「25分で5000Gの時の勝率」を比較することで可視化することが出来ます。そして、この課題を解決するために、より具体的な2つの問題を設定しました。

方法:ゴールド差×時間帯の勝率と統計的検定

1つ目の問題は、実際に行われたゲームのデータを集め、時間とゴールド差と勝ち負けを集計することでゴールド差と勝率の関係を明らかにしようとしました。つまり、任意の時間、任意のゴールド差で、「○○分で××G差だと勝率△△%」ということを言えるようにすることです。
2つ目の問題は、ゴールド差が勝率の違いに現れなくなる時間帯はいつからか、ということです。LoLは仕様上、アイテムを6個までしか持てないので、いくらゴールド差をつけたとしても、強さに上限があります。また、完成アイテムが同じ1つ差でも1つvs2つと5つvs6つでは後者の方がまだましだといわれます。そこで上記で得た、同じ時間帯で違うゴールド差の勝ち負け数について、統計的検定を行うことでゴールド差が勝率の違いに現れなくなる時間帯は存在するのか、するならいつからかを検討します。

実験結果と議論

実験データの概要:集計したデータに関して

実験について、まずは今回集めたデータに関して概要を示します。RiotAPIを使い、パッチ11.7から11.10の日本サーバーで行われたランクマッチ約40万ゲームを集計しました。RiotAPIでは1マッチの1分毎にゴールドデータが取得できます。そこで、1分毎、1000G毎に区切り勝ち負け数を集計し、勝率を計算しました。

実験1の結果:ゴールド差ごとの時間変化による勝率の変化グラフ

上記データをまとめ、折れ線グラフに表したものが図2です。

図2、ゴールド差ごとのゲーム時間と勝率のグラフ

横軸がゲーム時間、縦軸が勝率で、折れ線グラフの系列それぞれがゴールド差ごとのグラフになっています。一番下の赤い折れ線グラフが1000G差の勝率です。それから上に黄色の2000G、緑の3000Gと1000Gづつで、最後から2番目が水色の10000G、一番上は5000G飛んで、薄紫の15000Gのグラフになっています。間の11000Gから14000Gや16000G以上のグラフもありますが、見やすさの都合上省いてあります。
まず、大前提としてゴールド差があればあるほど勝率がちゃんと高くなっているということです。そして目につくのが、上の方が折れ線グラフの間隔が狭いということです。これはゴールド差があればあるほど、勝率は上がるものの勝率の上がり幅は小さくなる、ということです。そして、全てのグラフが右肩下がりになっています。これは同じゴールド差であれば、時間がたてばたつほど勝率が悪くなることを示しています。下がり方に関して、17~18分ごろに傾きが変化し、それまで急だったものがなだらかになっています。この原因に関しては不明です。この時間帯にあることは、15分からできる早期サレンダー、多くの場合は3体目のドラゴンや2匹目のリフトヘラルドなどがありますが関連はわかりません。次に、40分以降に注目すると、グラフが交差するようになります。これは、40分以前ではゴールド差が大きければ大きいほど勝率が高かったですが、40分以降の時間帯からそうではないことが表れています。

実験1の議論:グラフの意義

改めて、グラフから得られた結果を箇条書きでまとめると以下のようになります。

  • ゴールド差が大きくなればなるほど勝率は上がるが上がり幅は小さくなる
  • 同じゴールド差でも時間が過ぎれば過ぎるほど勝率が悪くなる
  • 40分以降はグラフが交差する→ゴールド差と勝率の関係性が弱くなる

これらの事実は、はっきり言って目新しさはないですが、今まで定性的に語られていたことが集めたデータと矛盾していない、つじつまが合っていることが重要だと考えています。このことから、今回のデータは信頼性があると考えています。
このグラフは、ゴールド差という非常に一般的な指標と、勝率が対応させ、可視化した点が面白い部分だと考えています。一方で、これはゴールド差しか評価していません。LoLの勝ち負けにはオブジェクトやドラゴン、パワースパイクの違うチャンピオンなどまだまだ無数の要素があります。今回のグラフはこれらは全く考慮していません。つまりこのグラフは、ゴールド差以外の要素が平均的な状態にあると仮定しています。状況によってはかなり勝率が違うときもあることが考えられますが、その具体的な状況や勝率は現状ではわからないので、今後の課題だと考えています。

実験2の結果:31分以降の勝ち負け数についてのカイ二乗検定

次に、ゴールド差が勝率の違いに現れなくなる時間帯はいつからか、という問題を検討していきます。図2のグラフでは40分以降の時間帯から系列が交差している部分があります。例えば45分ごろ、うす緑の9000G差と水色の10000G差の部分です。これは、この時間帯はすでに9000G差と10000G差では勝率に殆ど違いがないということを示しています。そこから右の方に目を移すと、50分過ぎでは線が交差しまくって、ゴールド差と勝率がほとんど関係しなさそうな雰囲気を出しています。
そこで、雰囲気ではなく本当に勝率に違いが無いのかを調べるために、1000G差と2000G差、2000G差と3000G差と言った隣り合う系列のデータの組に関して1分毎のデータごとにカイ二乗検定を行いました。カイ二乗検定を簡単に説明すると、1000G差と2000G差で勝率が変わらない、という仮説がどれだけ妥当か調べる方法です。1000G差と2000G差で勝率が変わらないという仮説が妥当ではない、という結果が出たらその2つには勝率に違いがあるといえます。
検定の結果15000G差と10000G差は34分では2つに勝率の違いがあるが、35分の時点で勝率に違いがないとは言えない、という結果が出ました。これらをまとめたものが表3です。

表3、ゴールド差ごとのゲーム時間と勝率のグラフ
パッチ11.7から10のゴールド差ごとの勝率の違いのp値表

この表の見方を説明すると、赤いマスの所は横のゴ-ルド差と縦の時間の時、勝率に違いがあり、緑のところは勝率に違いが無い、という結果になったということです。「10000Gと15000G」に注目すると34分までは赤いので10000G差と15000G差の2つには勝率の違いがありますが、緑になった35分以降は10000G差でも15000G差でも勝率に違いが無い、という検定結果になりました。
この表の緑と赤の境界線に注目すると、それは右肩下がりになっています。ということは、大きなゴールド差同士、15000G差の勝率と10000G差の勝率は35分に違いが無くなり、それ以降ゴールド差が大きいほうから順に、時間経過で勝率の違いが無くなっているということです。最終的に48分までに全ての組で勝率に違いがあるとは言えない結果になりました。つまり、35分ごろでは2000G差と3000G差では勝率の違いが7~8%あったにもかかわらず、48分にはそれが無くなってしまった、ということです。

そして、56分以降ではゴールド差がいくつであっても勝率が50%より大きいとは言えない結果になりました。(表4)

表4、ゴールド有利なチームの勝ち負け数とp値

実験2の議論:検定結果の解釈方法

これらの統計的検定の結果をどう解釈すべきかということですが、数字に関して厳密にとらえるよりも、傾向が出ていると考えるべきです。つまり、表4に関しては「ゴールド差がいくつであっても勝率が50%より大きいとは言えなくなる境界は56分である」ではなく「ゴールド差がいくつであっても勝率が50%より大きいとは言えなくなる境界は56分『付近』にある」という風に解釈すべきだと考えました。理由は、統計はあくまで分析した一部のデータから、全体を予想しようとするものです。違うデータや違うパッチで完全に同様の検討を行ったとしても、同じ数字が出るとは限りません。なので、今回だけの結果を持って、「56分」以降にゴールド差がいくつであっても勝率が50%になる、言い切ってしまうと「本当に56分?55分や57分ではなく?」という疑問があるからです。一方で、どれだけ差があろうともこの時間帯になってしまえば、負けているチームもフルビルドになり、ビルドではほとんど差が無くなると考えられます。なので、今回の結果はゲームのルール、システムから考えると非常に妥当な結果に見えます。
以上をまとめると、56分という数字を言い切ってしまうと間違った結論に達してしまう可能性があります。しかし56分周辺にゴールド差に関係なく勝率が50%になる境界線がありそうです。これらのことから、今回の実験の結論は「ゴールド差がいくつであっても勝率が50%より大きいとは言えなくなる境界は56分付近にある」というものにしました。
表3に関しても、統計の限界から本当は赤になるべきなのに緑になっているマス(逆に本当は緑なのに赤になっているマス)がいくつかある可能性が高く、そう考えると○○分でゴールド差と勝率が関係無くなると断定することは間違った結論に行きかねません。しかし、全体の傾向は出ていると考えています。なので、数字、特に時間に関しては断定的に表現しないのが妥当だと考えます。以上をまとめた結論は以下のようになります。

  • 30分後半から15000G差と10000G差の勝率は変わらなくなり始める。それ以降、大きなゴールド差から勝率に対しての影響力が小さくなる。
  • 最終的にはどんなゴールド差があっても勝率が50%に近づく。その境界線は56分前後にあると考えられる。

結論

全体の結論は以下の通りです。

  • ゴールド差が大きくなればなるほど勝率は上がるが上がり幅は小さくなる
  • 同じゴールド差でも時間が過ぎれば過ぎるほど勝率が悪くなる
  • 定性的に知られていたことを可視化できた
  • 30分後半から15000G差と10000G差の勝率は変わらなくなり始める。それ以降、大きなゴールド差から勝率に対しての影響力が小さくなる
  • 最終的にはどんなゴールド差があっても勝率が50%に近づく。その境界線は56分前後にあると考えられる

この記事はこれで以上です。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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